心臓病 のち うつ病 ときどき 腸閉塞

どん底からの復活をめざして…

さよなら、ありがとう

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 昨日、実家の愛犬が12年間の生涯を終えた。

 昨年の1月に腫瘍摘出の手術。それ以降元気を取り戻していたのだが、今年の2月24日、ちょうど宮崎空港で、巨人軍のキャンプから帰ろうとしたとき、携帯に母からの電話が入った。
「ミルちゃん、調子悪いねん。」
 実家に行ってみると、明らかにぐったりとした様子で、体全体で息をしている。ほとんど何も食べなくなってしまったようだ。けいれんや意識消失も時々起こしている。
 獣医に診せたところ、心臓の周囲に水がたまっているとのこと。投薬を受けた結果、少し元気になったが、依然食べない。大好きだったペット用のチーズやソーセージも、プイと横を向いてしまう。
 それでも豚、ささみ、じゃがいも、レバーなど、いろんな物をいろんな調理法で与えてみて、一日おきに何かしら少しは口にしていた。
 しかし、それがやがて三日に一回となり、この一週間は水以外何も口にしなくなった。日に日にやせ細って元気のなくなっていく愛犬を見るのは忍びなかったが、それでもできるだけの愛情を注いであげようと、私も足しげく実家に通った。
 また、獣医であらゆる手を尽くそうとも考えたが、12歳という年齢を考えると、小さなやせ細った体にこれ以上痛い思いをさせるのはやめて、自然にまかせようという結論になった。

 4月27日夜、甲子園球場での観戦を終えて帰路につく私に電話が入った。
「ミルちゃん、もう、いよいよダメみたい」
 急遽実家へ向かう。駅まで迎えに来てくれた父と話すのだが、言葉にならない。40年生きてきて、父が泣いているのを見るのはわずか2回目。私も辛いが、父も、母も、それほど辛いのだろう。
 駆けつけると、横になってぐったりとした愛犬の姿があった。私が大きな声で「ミルちゃん、来たよ!」と声をかけると、もう立つこともできないし、尻尾を振ることもできないが、虚ろな目をパッチリ見開き、きちんと私の方を見てくれた。

 その夜は、家族3人で愛犬を見守った。

 翌朝、仕事を休もうかとも思ったが、私を待っている人もいるし、愛犬にとっても本望ではないだろうと思い、後ろ髪引かれる思いで実家から出勤した。
「ミルちゃん、僕が帰ってくるまで旅立ったらアカンで。待っててや。」
声をかけたが、表情は虚ろだ。
 一日気にはなっていたのだが、仕事に穴は開けられないし、いい加減にもできない。会議などがあり終業が午後7時頃になったので、一旦自宅に帰宅して実家に戻ろうと玄関のドアを開けたときに、携帯が鳴った。

「ミルちゃん、今日のお昼に旅立ったよ…」

 私は玄関で崩れ落ち、大声で泣き叫んだ。



 実家へ訪れると愛犬は安らかな表情で眠っていた。まるで今にも動きそうだ。
「ミルちゃん、待っててって言ったのに。でも頑張ったな。楽になったか?」
 声をかけ、撫でてやっても、名前を呼んでも、動かない。体は冷たく硬い。
 亡骸を前にして、家族みんなで泣いた。

 そして今日。
 晴れ渡り、清々しい朝。実家へ向かうが、悲しみの淵にいる私たちとは関係なく、世界がいつも通りに動いていることに虚無感を禁じ得ない。
 11時、ペット葬祭業者が遺体を引き取りに来た。簡単だが、きちんと祭壇を組み、紙の棺に愛犬の亡骸を納めた。家族で焼香をし、母が買ってきた花、好きだったペット用のチーズやよく遊んでいたぬいぐるみや玩具を棺に納め、いよいよ最後のお別れ。
「ミルちゃん、楽しかったよ、ありがとう。バイバイ。またいつか必ず会おうな。」
 声をかけ、手を合わせ、父と二人で棺を車まで運び、みんな涙で車を見送った。このあと荼毘に付され、あす実家にお骨が帰ってくる。お骨はしばらく実家においておき、いずれ実家近くの総持寺というお寺に納骨する予定だ。

 12年前、何ヶ月もかけて何軒かペットショップを回って、やっと出会えたことが思い出される。
それから私の転職、入院、結婚、引っ越し、休職…いろんなことがあったが、何か辛いことがある度に、そばに来てガラス玉のような瞳で私をじっと見つめて癒し続けてくれた。
 実家に行けば大喜びして飛びついてきたが、帰るときには怪訝そうな顔をしていた。晩年は手術や病気があり辛い思いをしただろう。

 本当に辛い。悲しい。私の父も、祖母が亡くなったときでさえ、これほど泣かなかった。しかし、12年間本当に私たちに癒しを与えてくれたことには、心の底から感謝の気持ちでいっぱいだ。
 悲しみ、寂しさ、虚無感、感謝、いろんな感情やいろんな思いが交錯し、当分気持ちに整理がつかないし、悲しみも癒えないだろう。もう少し落ち着いてから、とも思ったが、少しでも記憶と感情が薄れないうちに、あえて今、断腸の思いでこのことを綴っておくことにした。

 ミルちゃん、さよなら。そして、ありがとう。

 しんどかったよね。がんばったよね。でも、もう安らかに眠っていいんだよ。

 そして、いつか、いつかまた一緒に遊ぼうな。